不整脈・心房細動コラム

カテーテルアブレーション 合併症 2022-2023年実績

当院の心房細動カテーテルアブレーション合併症発生率 2022年-2023年実績

当院では、2022年2月から2023年12月までに1035件の心房細動カテーテルアブレーションを術者1人で行いました。

合併症発生率は、術者の経験値の積み重ね、医療機器の進歩により以前よりだいぶ少なくなってきております。

合併症発生率は以下の通りです。

 

術直後は、カテーテルアブレーションの炎症により、一過性に熱が出たり、おなかが張ったり、深呼吸をすると胸に違和感を覚えたり、咳が出ることがあります。

お薬の副作用で頭痛が出る方もいらっしゃいます。アブレーションの炎症は術直後が強く、徐々に治まっていきますので、症状が出たとしても時間の経過とともに改善していきます。

穿刺部は、青くなりますが、1ヶ月以内にきれいになります。

当院における合併症予防のための取り組みをご紹介いたします。

心タンポナーデ

カテーテルアブレーションは、ヘパリンという血をさらさらにする薬を投与してかなり血をさらさらにして行う手術です。手術中の脳梗塞を予防するために血をさらさらにすることは必須なのですが、そのため出血の合併症があります。心臓の中で、複数のカテーテルを操作するため心臓に強くカテーテルがあたってしまう、もしくは通電をしすぎてしまうと心臓の外に血液が漏れ出てしまいます。血液が漏れ出たせいで、心臓がひろがれなくなり、結果として心臓がポンプとしての働きができなくなってしまう状態が心タンポナーデです。心臓の外側にたまった血液を吸引するなどの処置が必要になります。ほとんどの場合、心臓の外側に管を入れ血液を吸引し、血をサラサラにする薬の効果を相殺する薬を投与することで止血されます。まれですが、外科的な手術が必要になる可能性があります。心タンポナーデは、心房細動カテーテルアブレーションの最も多いとされる重大合併症になります。

術中、呼吸が深くなるとカテーテルが強く当たり、心タンポナーデが起こることがあります。全身麻酔により呼吸を安定させ、アブレーションカテーテル先端がどの程度あたっているかわかるコンタクトフォースカテーテルを用いることで予防しております。すべてのカテーテルにコンタクトフォースがついているわけではないため、慎重なカテーテル操作を心がけております。

脳梗塞/一過性脳虚血発作

カテーテルアブレーションはカテーテル先端と、背中にはったパッチの間で電気やりとりをして、カテーテル先端にふれている心臓の筋肉が熱を持ち、やけどをつくっていく手術です。血液は温度が上がると固まります。ヘパリンという血液をさらさらにする薬を投与し、さらにイリゲーションカテーテルという血栓ができずらいカテーテルを用いて通常手術が行われますが、それでもカテーテル先端に血栓ができてしまうことがあります。できてしまった血栓が頭にとんでいくと脳梗塞がおこってしまいます。ただ、血をさらさらにして手術をしているため大きな血栓がとんでいく可能性は非常に低いです。

術前に造影CTもしくは、経食道心エコーで血栓がないことを確認し、術中にヘパリンを十分量投与し、血液のさらさら具合を定期的に測定することで予防しております。イリゲーションカテーテルの設定によっても血栓のでき方が違うため、通電部位ごとに設定を変更し、血栓ができないように気を配っております。

一過性横隔神経障害

上大静脈や右肺静脈近傍には横隔膜を動かす横隔神経が走行しております。上大静脈隔離、右肺静脈隔離を行うことで横隔神経に障害が出てしまい、右横隔膜の動きが弱くなることがあります。多くの場合、無症状で胸部レントゲンを撮ることで気が付きますが、息切れ、咳といった症状が出る場合があります。クライオバルーンによるアブレーションや上大静脈隔離の際、3~5%程度でおこるとされております。通常、半年から1年の経過で横隔神経障害は改善いたします。

当院ではクライオバルーンは行っておりません。上大静脈隔離は全例に行っているため、右肺静脈隔離、上大静脈隔離の際には、横隔神経がどこを走行しているか確認し、走行している部位の通電は最小限にするようにして予防しております。

入院を要する食道迷走神経障害

左心房の後ろ側には食道が走行しており、その前面に食道迷走神経という胃や腸を動かす神経が走行しております。肺静脈隔離や左心房後壁隔離をする際に食道を横切るようにアブレーションを行うため、食道迷走神経に一過性に障害が出ることがあります。障害が出ると、おなかが張って、腹痛が出ます。通常、お腹を動かす薬を投与し、時間の経過で改善していきます。入院を要する食道迷走神経障害がおこることはまれです。

術前のCTで食道の位置を把握し、術中は食道に温度センサーを挿入し、食道近傍の通電は、5秒以内に停止し、食道温が39度になったら通電を中止することで予防しております。

左房食道瘻

左心房の後ろ側には食道が走行しており、食道近傍の左心房にアブレーションをすることで食道が傷つきます。食道の内面に潰瘍ができ、胃酸が逆流することで食道側から左心房に穴があいてしまった状態が左房食道瘻です。発生頻度は非常に低いですが、起こってしまうと致死率70%ともいわれる怖い合併症になります。心房細動カテーテルアブレーション後、1か月以内に起こる可能性があります。

胃酸の逆流が関与しているため、胃酸の分泌を抑えるお薬を1か月程度内服していただく、術前のCTで食道の位置を把握し、術中は食道に温度センサーを挿入し、食道近傍の通電は、5秒以内に停止し、食道温が39度になったら通電を中止することで予防しております。

仮性動脈瘤

足の動脈に動脈圧をモニターするための管を入れた際、止血がうまくいかないときなどに起こります。動脈の外側に持続的に血液が漏れ出る状態となり、穿刺部が大きく腫れあがります。エコーを見ながら長時間圧迫止血し、翌朝まで安静にすることで止血される場合もありますが、必死に止血してもとまらず、外科的な手術が必要になることが多いです。

心タンポナーデの発生率が低いため、動脈圧モニターをしないことが多いです。心機能が悪い症例などで動脈圧をモニターする際には手首の動脈を使う、足から動脈圧をモニターする際にはできるだけ細い管を用いることで予防しております。

症状を有する肺静脈狭窄

心房細動カテーテルアブレーションとは、肺静脈周囲に電気を流し、やけどをつくる手術です。肺静脈の奥側で通電し、複数の肺静脈が細くなってしまうと肺高血圧が起こり、労作時息切れなどの症状がでることがあります。1本の肺静脈が高度に細くなるもしくは閉塞することで症状がでることもあります。息切れがひどかったり、酸素化がわるくなるような肺高血圧をきたしたりすると肺静脈を風船でひろげ、ステントをいれる手術が必要なる可能性があります。

3D mappingシステムを用いて肺静脈の手前側に通電する、左下肺静脈が狭窄をきたしやすいため、左下肺静脈近傍では他の肺静脈よりも通電の設定を弱めにすることで予防しております。

重篤な空気塞栓

シースという管から空気が左心房に入ってしまい、脳梗塞や心筋梗塞を起こすことがあります。クライオバルーンなどで用いる太いシースから大量の空気が入る事象が相次ぎ、学会で問題になったことがあります。太いシースが左心房にある状態で、カテーテルを引き抜いたタイミングで、深呼吸が起こると胸腔内圧が陰圧になるため大量の空気が左心房に入り、起こると考えられております。

太いシースは左心房にいれない、全身麻酔により呼吸を安定させることで予防しております。

血管、弁の損傷 カテーテル抜去困難

バルーンカテーテルやリングカテーテルが肺静脈や僧帽弁を損傷もしくはからみつき、抜去困難になり、外科的手術が必要になったという事例が報告されております。

リングカテーテルは、僧帽弁方向にはもっていかないようにし、慎重に操作するように心がけることで予防しております。

気胸

冠静脈洞にカテーテルを入れるために、鎖骨下静脈を穿刺することでおこる可能性があります。誤って肺を穿刺してしまうと、肺に穴が開いてしまう気胸が起こります。肺の外側にたまった空気が肺を圧排し、呼吸がうまくできなくなってしまいます。胸腔ドレーンという太い管を肺の外側に留置し、漏れ出た空気を吸引し、傷がふさがるのを待ちます。

当院では、鎖骨下静脈の穿刺は行いません。上大静脈側から冠静脈洞にカテーテルを挿入する際には、エコーガイドで右内頚静脈を穿刺することで予防しております。

ページ著者・監修者 院長 濵 義之

濵 義之

主な経歴

2003年山梨医科大学卒業。循環器科の中でも不整脈を専門とし、心房細動に対するアブレーション手術を得意とする。君津中央病院循環器内科の医長・部長などを経て2020年に幕張不整脈クリニック(千葉市花見川区)を開院。5000件程度のアブレーションに携わり、年間500件以上のアブレーション手術を行う。

資格

  • 日本不整脈心電学会 不整脈専門医
  • 日本循環器学会 循環器専門医
  • 日本内科学会 認定内科医